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セルー国立公園

 1997年暮れに出かけたのがタンザニアのセルー動物保護区です。ダルエスサラームから約200km南下した内陸部にある、有名なセレンゲティよりもさらに大きいと言われる、世界最大級の動物保護区です。もっともそこにいたのが三日間だけですから、ほとんどかすめた程度に過ぎませんけど。セルー動物保護区の紹介ということで、写真たっぷりでおみせします。

ダルエスサラームにて

 セルー動物保護区へ行くにはダルエスサラームから飛行機で入るのが一般的です。これはセルー一帯が水が多く、道路の状況が悪いせいでもあります。従って、モシに住んでいる僕らがセルーへ行こうとすると、一旦ダルエスサラームへ出なければなりません。今回は正月三が日にセルーに滞在する予定だったので、その前日、つまり大晦日の日にダルエスサラームへと向かいました。僕の車で行きましたが例によって約7時間のドライブです。7時間あれば、モシからならセレンゲティまで行けますから、セルーへ行く事がいかに大変な事か分かってもらえると思います。もっともダルエスサラーム在住者にしてみれば、立場は全く逆なわけですが。

 さて大晦日の夜。新しくできた香港という高級中華料理店。海老の揚げ物をオードブルに、南アフリカ産の白ワインのグラスを二人で傾けます。向かい側に座っているのが、むさ苦しい男でなければ…と思ったのは僕だけではなかった事でしょう。今回の同行者は、一年前のザンジバルへの同行者だった安江さんの後任、関野さんです。

セルーへ

飛行場 明けて元日、1998年の始まりです。お雑煮もお節料理もありません。ダルエスサラームで定宿にしているエンバシー・ホテルのレストランで、いつものようにトーストを食べ、パッションフルーツのジュースを飲み、パパイヤやマンゴー(今が旬)などの果物を食べてそれだけ。このホテルの朝食は卵は別料金だし、それにベーコンを付けると更に別料金、というせこいシステムなんです。実を言うと関野さんの借りている家の大家さんがオーナーなんですけどね。でも正月にはお節はともかく、お雑煮は食べたいなあ、と思うのですが、まだまだ僕も日本人ですね。

 さてセルーへ向かうのはチャーターフライト専門の会社が飛ばす小型機です。客は僕ら二人だけ。8時半チェックイン、9時発と聞いていたのに、ちょっと前に行ったら僕ら二人だけだったせいか、8時半に「では出発!」となりました。ところが飛行機の所へ行ってからいきなり燃料を入れ始めるあたり、タンザニアの町を走っているタクシーと変わらないじゃないですか。パイロットは白人です。飛行機は6人乗りの双発機でしたが、何と言う機種かは知りません。以前はどんなタイプの飛行機に乗ったか覚えていたのですが、20機種を超えたあたりからどうでもよくなりました。

 さて燃料の準備ができて飛行機は飛び立ちました。ダルエスサラームの空港は、ジャンボ・ジェットからセスナまで一つの滑走路を使っています。ダルエスサラームを離れると機はちょうど雲の高さを飛行し、約40分後に川のふちにある高台の、未舗装の滑走路に着陸しました。

Rufiji River Camp

tent さて飛行機が着陸するとすぐに、無線で連絡をしたのか、あるいは単に飛行機のプロペラの音が聞こえたからかわかりませんが、ランドローバーが一台やってきました。これが今回予約した宿、Rufiji River Campからのお迎えです。

 Rufiji River Campはその名でもわかるようにRufiji川の横の高台にあります。滑走路からは車で十分かからない程度の距離でした。いわゆる tented lodge と呼ばれるもので、宿泊は作り付けのテントです。ただテントの上に更に簡易的ではありますが屋根が被せてあり、さらに水洗式のトイレとシャワーが後部に付いています。こんなテントが十棟ですから収容人数はわずかに20名という事になります。

ボートサファリ

boat さてタンザニアの他の公園では多分経験できないのが、ボートに乗って入り組んだ川を巡るサファリです。キャンプの目の前を流れるRufiji川本流や、その支流を約2時間半廻ります。ボートは底が平べったいアルミ製、お客さんが詰めれば7、8人は乗れるでしょうか。後部に船外機が付いており、モーターボートを平たく潰したようなものです。到着した日の夕方(つまりは元日ですね)に最初のプログラムとして、僕らもボートサファリへ出かけました。

 川の水は茶色く濁っています。雨が降っていない時期も濁っているそうです。流れは速い所もありますが、日本の急流は思い浮かべないでください。大雨の後の日本の大河川の河口近くの流れ、と言ってもあまりぴんと来ないかもしれませんね。とにかくボートで溯るのにもそれほどの支障はない程度の流速です。水深はわかりませんが、それほど深くはないだろうと思います。

ヒメヤマセミ 川に出てすぐに目についたのは、カワセミやハチクイ(これも鳥です)の類の多さです。なぜかと言うと、これらの鳥は土壁に横穴をあけて巣を作ります。川のふちは流れによる侵食で、土壁がむき出しになっている所が多くありますから、こうした鳥達にとっては格好の営巣場所になる訳です。

マラカイト・キングフィッシャー カワセミの類も数種類いますが、一番よく目につくものはヒメヤマセミと呼ばれる、日本のヤマセミに良く似た鳥です。日本ではヤマセミは滅多にお目にかかれませんが、アフリカのヒメヤマセミは、カワセミの仲間では最も見るのが容易な種類です。全部で5種類のカワセミを見ましたが、他にも数種類いるそうです。

 水が少し浅そうな所にはかなりの数のカバがいます。時々浮き上がってきては、鯨のようにプシューッと潮を吹いています。でも顔しか出てきませんから、ほとんど写真にはなりません。カバも怒らせると恐い動物です。何しろ大きいですから、ボートをひっくり返すくらいはできるのではないでしょうか。ひっくり返されたりしたら大変。ワニもいますし、カバにだって噛まれたら、人間の手足なんかすぱっと切られてしまうそうです。

ワニ さてワニの方は時折岸近くの水の中や、岸辺に佇んでいるのを見かけましたが、大きなものでせいぜい1メートル半くらい。これくらいならいざとなったら戦えるサイズです。でもガイドに聞くと、もっと大きなやつもいるのだそうです。

赤い花 ボートは支流に入り、かなり両岸が狭くなった部分を、覆い被さるブッシュにひっかかれながら進みます。このあたりに多いのはハタオリドリの仲間です。水の上に出ている枝に、びっしりと巣をかけています。何かで読んだ記憶があるのですが、ヘビを避けるために水の上を好むのだそうです。しかしここの所の雨で、可哀相に水没している巣もかなり見かけました。何と言うのか知りませんが、両側の木には赤い花がついています。

 さてボートは更に進み、再び広い所へ出ました。幹が太く、背の高いヤシの木が立ち並ぶ様は、まるでギリシャかローマの神殿のようです。ボートにイタリア人の夫妻が乗っていたので「フォロ・ロマーノ(ローマ市内にある大きな遺跡)みたいだね。」と話し掛けようかと思いましたが、夫婦とも英語が全然分からないみたいだし、受けなくてボートの上でみんなでしらけるのも嫌なので、止めておきました。

暑く長い日

 明けて1月2日。この日は車によるサファリの日です。車に乗ってのサファリなら、今まで紹介したことのあるアルーシャ、ンゴロンゴロ、セレンゲティ、といった公園と大差ありません。と思いきや、一つだけ大きな違いがありました。それはサファリに使う車です。他の公園では、普通の四輪駆動車の屋根に大きな開きを作ったものがいわゆるサファリ・カーとして使われています。ところがここのものは、ピックアップ型のランドローバー(アフリカに多いイギリス製四輪駆動車で僕の車の旧型)の荷台に、枠を付けただけのものでした。屋根もありません。ドアもありません。壁もありません。豪快といえば豪快ですが、雨が降ったらどうなっちゃうんだろう。それよりもライオンが襲ってきたらどうなっちゃうのか。

 まあ、何はともあれ出発です。お弁当を持ち、朝から夕方まで、延々9時間に亙るサファリの始まりです。

インパラとシマウマ

 まず現われたのがインパラ。小型のカモシカの類です。大きな群れで暮らしています。草原よりはちょっと木がある所を好むようで、ブッシュが多い所に大きな群れを作っていました。

カーマイン・ビーイーター 車はどんどん進みます。途中珍しい鳥を何種類も見たりもしました。左の写真はずっと見たかったカーマイン・ビーイーターです。が残念ながら始めてみる種類のトゥラコ(エボシドリ)の写真にはシルエットしか写っていませんでした。でも意外に動物は少ないのです。今は雨が降っていたるところに緑の草が生えていますから、散ってしまっているのかもしれません。ハゲタカが舞っているのを見つけ、近づいていってみると、ライオンの足跡。そして子象が死んでいました。前日くらいに襲われたようです。でも周囲にライオンの姿は見えません。

素通しで見るライオン こんな大きな獲物にありついたあとでは、しばらくやぶの中で寝転がっていて、姿を見せないのかなあ、とさらに進むと、いましたいました。なぜか子供ばかりですが、7頭のライオン。

 日陰にいるのがそうです。ライオンと僕らを遮るものは何も無い事がわかるでしょうか。子供ばかりでしたから緊張感も無く「かわいいなあ」なんて言っていられましたが、もし大きなオスでもいたら早く逃げ出したくなったと思います。

hunting dogs  セルーに来るにあたって、実はひとつだけ特に見たかった動物がいました。それはハンティング・ドッグと呼ばれる集団で狩をするイヌの仲間です。昔見た「野生の王国」などではリカオンと呼んでいました。ケニアやタンザニア北部の公園では、人間の飼うイヌからうつった病気で全滅に近い状況です。それがセルーにいると聞いていたのでぜひ見たかったのです。ドライバーにも「絶対見たい」と伝えてありましたが、果たして湖の縁でお弁当を広げた後の午後一番。ついに見る事ができました。でも最初に見つけたのはドライバーではなく、僕でしたが。

 ハンティング・ドッグ達、日陰でごろごろお昼寝状態です。それもそのはず、暑いの何の。僕らは日陰に入る事もできず、屋根の無い車の上で、ほとんど真上から照りつける太陽の日差しに朝から晒されたままです。両腕は既に真っ黒、首筋や鼻の頭は痛み始めています。前日と同じイタリア人夫婦が一緒でしたが、ドライバーに早く帰ろう、なんて言い始めています。イタリア語ですが、ドライバーが「5時半頃キャンプに着く」と言っているのに「4時には着こう」と主張しているのがわかってしまいました。途中で僕がどうやら会話を理解しているらしいと気づいたドライバー、こちらを見て苦笑しました。僕の方もハンティング・ドッグを見れたし、もういいかな、という気になっていました。

子連れのゾウ 帰り際にはゾウの群れに会いました。ドライバーはどんどん近づいていきます。子供を連れた母親ゾウはかなり神経質です。無論ドライバーは経験的にどのくらいまで近づけるかを知っているのでしょうが、何しろ覆いも無いランドローバーの上です。こちらをじっと見て耳をぱたぱた神経質に動かし、ついには「パオー!」と威嚇された時には正直、肝を冷やしました。

アカシアの花と棘

 でも結局この後この日二度目のパンクがあったりして、帰り着いたら5時を回っていました。何しろこのドライバー、木のある所も平気で木を押し倒して入っていってしまいます。その木というのがまた棘だらけのアカシアです。

 この棘、固さは並大抵ではありません。「集めて爪楊枝として輸出したら?」なんていう話をしたら、「歯茎に刺さってしまいそうで恐い」という反対が出たくらいの代物です。交換のため車から外したタイヤを調べると、案の定棘が無数に刺さっていました。写真を見て下さい。花はなかなかロリポップ(飴)みたいで可愛いですが、棘のすごさがわかると思います。

Walking Safari

レインジャー 1月3日。帰る日ですが、午前中は歩いて動物を見に行く、ウォーキング・サファリです。この日のガイドは旧式とはいえちゃんとしたライフル銃を持った、公園のレインジャーです。

カバの足跡 彼の後に付いて歩いて動物を見に行きます。キャンプを出るとすぐに無数の動物の足跡があります。「これはハイエナ。」「こっちはキリン。」「この大きなのはカバ(左の写真)。」以前ボツワナでやはり歩いて動物を見た事がありましたが、自分の立っている先に動物が立っている、のを実感するのはなかなか感動ものです。ライオンとかに会っちゃったら感想は異なっていたと思いますが。

 レインジャーに解説してもらって初めて知りましたが、僕らの寝ていたテントの周辺にもハイエナの足跡はたくさんありました。夜出歩いていたら結構危険だったのかもしれません。

地上からインパラを見る 最初はインパラなどの小型の草食獣のいる草原上の所を歩いていましたが、次第に川べりの薄暗い森林地帯へと入っていきました。カバやバッファローなど水を好む大型獣の足跡だらけの獣道をたどります。ガイドの歩調が遅くなりました。「このあたりは日陰だから時々昼間でもカバがいて危険なんだ。」ゆっくり周囲を確かめながら進みます。その時近くでガサッという音が。ガイドはそちらを注視したまま手で静かにしろ、と合図しています。息を呑む一瞬。

 その時ガイドが「もう一人は?」えっ、と思って振り向くと、ヒョウに音も無くさらわれてしまったのか後ろを歩いていたはずの関野さんがいません。あるいは迷路のような獣道で道に迷ってしまったのでしょうか。「彼はもう二度と現われないかもしれないなあ」という思いがよぎります。

 様子を窺っていたガイドが再び動き始めてこちらを振り返り、僕は空想から我に帰りました。「大丈夫。ヒヒの群れだ。」安堵感もあり、またちょっと肩透かしを食ったような気も。関野さんはもちろん後ろで双眼鏡片手に目をきょろきょろさせています。

樹上のコロブス・モンキー しばらく行くと、川のふちに出ました。そこには大きな木がはえており、木の上にはシロクロコロブスが住んでいます。高いところにいるのでなかなかよく見えないのですが、双眼鏡で辛抱強く観察すると、アルーシャ国立公園でおなじみのものより、一回り小型で、それに毛のふさふさも少なくみすぼらしい気がします(サファリから帰ってから調べてみると、やはり別種のようでした)。

 やがて道はヤシの木の林へと入ります。林床にはヤシの実がたくさん落ちており、中には芽を出しているものもあります。このヤシの実は食用になるそうで、サルだけでなく、たくさんなる季節にはゾウの群れが食べに集まってくるそうです。人間にも食べることはできるけれども、あまり食べる人はいない、という話でした。

 3時間ほど歩いてから、帰りは川岸に出てボートに拾ってもらいました。

帰還

Air Strip キャンプに戻って荷物をまとめます。チェックアウトの手続きをしに行くと、「すみませんが、今日飛行機がここには来ない事になりました。」「ええっ!」一瞬ぎょっとしましたが、「別の滑走路に飛行機が来ます。そこまでまでおつれしますが、遠いですし時間がありませんから急いで出て下さい。」昼食後の出発の予定だったのが、サンドイッチだけを持たされ、すぐの出発となりました。

 そして車に乗せられると思いきやまたまたボート。同乗したレインジャーの指示でボートは迷路のような川の支流をあっちこっちと進んで行きます。そうやって約30分。「こんな所に本当に飛行場があるの?」と不安に思っているとやがて何も無い所に接岸しました。陸に上がりブッシュの中を歩いて約5分。本当に滑走路、そして飛行機が!今度は20人乗り位の双発セスナです。滑走路は波打っており、段々速度を上げていく機の中は、まるでジェットコースターに乗っているみたいです。飛びあがるとすぐに川の上。思っていたよりもずっと大きく、複雑に流れる川です。これがタンザニアの風景とは到底思えませんでした。


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